外食!商品開発 最前線

開発の舞台うら

外食のBSC(バランススコアカード)


  企業である以上、我々は利益を上げなければなりません。従業員の生活の糧を賄い、会社をさらに大きくしてみんなで夢を共有する。「利益」はぜひとも必要です。その「利益」は何からできているでしょうか。

 これはもうシンプルに、「利益」は「売上」と「費用」との差でできています。

 下にBalaced Score Card(BSC)を書いてみました。商品からの観点に偏っておりますが、その点はご容赦を。

 BSCは企業のパフォーマンスを財務、顧客、内部の業務プロセス、組織の学習と成長といった4つの視点で幅広く定義し、それらが突出せずにバランスを保ちながら、企業の財務業績を中長期的に実現していくための見方を提供してくれます。

 このBSCの見方にならうならば、財務上の利益を達成するためには、お客様から見て十分に魅力的でなければならず、それを競合との絶え間ない競争のなかで遂行できる業務推進能力を会社は持ち続けなければならず、そのためには個人や組織としての不断の学習が必要である、となります。この流れをうまく正の循環にのせることができれば、企業はきっと繁栄できるでしょう。

 飲食店には、良いメニューがあればいいだけではありません。それを支える人や組織があり、その人や組織が絶え間なくグレードアップしていく。持続的に繁栄していくためには、企業とその参画者である従業員とにはそんな関係が必要なのでしょう。

 上記のBSC、私個人としてはもうすこし上手に作れたかなとおもっています。

 皆さんもご興味あれば、ぜひ会社で周囲の方たちと一緒につくってみてください。

 

※文頭の写真

 ラ・シュセット (東京 小伝馬町

 オレンジとパイナップルのコンフィにココナッツ風味のソースをかけたもの。サフランの香りがほのかに漂う。一番上にはパイナップルの輪切りを薄焼きせんべいのようにパリパリにしたもの。

 

 銀座レカンのメートルドテルを勤め上げられた下屋シェフが独立開業された店。もっと気軽にフレンチを食べに来られる店をもちたいと、安く提供することにこだわった。アラン・デュカスやピエール・ガニェールはモダンフレンチの極地だが、同時に捨てている食材も非常におおい。もっと食べ物を大事にしたフレンチのあり方を探ることができるのではないか、との思いが詰まっている。サービスも肩を張らず温かく、若い従業員への視線の送り方や言葉の使い方など、一つ一つの所作の自然さは、見ていて本当に落ち着く。 

客数を分解する

 月々のお客様の人数はどうしておおよそ一定なのでしょうか。

 個々のお客様をみれば、気まぐれでご来店になったり、やめたり、それはもう人それぞれです。 でも、日や月でお客様の人数をならすと、大体決まった人数が毎日毎月いらしてます。稼働計画を前もって立てられるのも、これが理由です。

 ちゃんと調べてみると、きっと客数を増やすためのヒントが埋もれているはずです。

 月当たりの客数を下に挙げたような多くの変数で説明できるかを試してみるといいかもしれません。下記の変数はパッと思いつくものばかりです。その他にもツイッターによる拡散が客数に影響しそうな店であれば、ツイッターの件数なども指標にいれてもよいでしょう。

 とにかく、多くの変数を準備して、それを片っ端からためしてみるとよいのではないでしょうか。

 さて、LN()としたのは、ばらつきが激しいので対数をとったほうが良いかなとおもったものです。

 乗降客数の多い駅(品川、新宿)に出店する場合もあれば、それほど多くない駅(鷺沼、狛江)のような駅を検討する場合もあります。桁違いに乗降客数が小さいので、横軸をただ単に乗降客数でとってしまうと、左のような図になってしまいます。

重回帰分析を行う場合、説明変数も目的変数もちょっとした工夫で正規分布に近づけられるなら工夫しておきましょう。式の当てはまりがよくなります(必須ではありません)。よく使うのは、例にあるように対数(LN)をとることです。

 実際に対数をとってばらつき具合を確認してみてください。

 形式で0,1 δ型とあるのは、ある瞬間にポンっと影響がありそうなものを上げてみました。次の月にはその影響がなくなっているでしょう。

 グランドメニュー改定は悲しいかな次の月には華やかな目立つ影響がだいぶ薄まっているのが現実だと思ってます。

 ただしやらないと、来店頻度が減って客数が減る方向に行くと強く考えられていますし、私もそうだと思っています。

 0,1 ステップ型と表現したのは、以下のような関数です。

 たとえば、今までにない新カテゴリーのメニューを大々的に導入したとかです。あるいは、ある日から近隣で自社競合店が営業を開始したとかです。これらは永続的に影響が残るので、ステップ関数とするのが良いのではないでしょうか。

 実際に当てはまるかどうかは、実際に計算をしてみてください。

 とはいえ、上に記したとおりにやっても、そんな簡単ではないかもしれません。店舗を分類したり、休日平日を分けたり、ランチとディナーを別にしたりと、もう一段細かく分類しないとうまくできないかもしれません。

 うまく結果がでるといろいろなものが見えてくると思います。秋冬は集客力がないとか、出店地域の差がもろに出るとか、出店時期(古さ?)が客数に影響しているとかが同程度の粒度感でみえてきます。それにより対策をうつべき優先順位が見えやすくなり、同時に担当すべき部署もわかりやすくなるでしょう。

 

※文頭の写真

 ル ショコラ アラン・デュカス (東京 日本橋

 抹茶のグラニテ(イタリア風かき氷)。中にレモンカードとチョコレートのソース。すごく濃厚な抹茶のシロップをつかっている。これだけ濃いと渋そうなものだけど、ぜんぜん渋くない。いい抹茶を使ってるのだろう。

 グラニテはイタリア発祥のかき氷でイタリアではグラニータといいます。果汁を砂糖と混ぜてバットに数ミリの厚さに薄くひいて冷凍庫で少し固めます。硬くなり始めたらスプーンでザクザクに砕いてまた固めます。これを何回か繰り返します。

 森永乳業の超ロングセラー「みぞれ」のシリーズがまさにグラニータだと思ってます。

 

客数の推移2 ~ 客数推移モデル

店舗の客数の推移2 ~ 客数推移モデル


 前回は客数の推移についてのの定性的な話でしたが、より輪郭をはっきりとさせるため、モデルをおいて解析してみます。

 用いたモデルは2-コンパートメントモデルです。薬物動態を履修された方には懐かしいモデルかもしれません。

 いま、商圏人口(N)を一定とします。ショッピングセンターが新たに作られ、ショッピングセンターへアクセスする人数をN1とします。N1のうち来店率k12の割合でレストランに来店し、その人数をN2とします。しかし、せっかく来店されたお客様も「次はもう来ない」として離反してしまうこともあります。その離反率をk21とします。さらに、ショッピングセンターへの来場も徐々に少なくなっていきます。これを消失率kelとします。


このとき、

微分方程式が2つできます。tは時間で、この場合は週にあたります。

これを整理すると、来店人数N2は、

となります。 αとβは定数です。

実際にご自身の手もとのデータで当てはめてみてください。 ただ、このときに注意すべきなのが、春休み、GW、盆、年末年始などの客数のピークの取り扱いです。 開店月がなるべく均等に散らばるように20店舗程度を準備して、平均を取るのが良いと思います。

 上記の式で計算してみるとわかりますが、駅前立地店舗の場合、上記の kel=ゼロとするとよいフィッティングが得られるでしょう。

 ここでは紹介していませんが、計算式上は、 kel が β に含まれており、kel=0 のとき β=0 となるため、右辺の2項めは定数  B となります。

 グラフの挙動上は、店の前までの街行く人々の動線やその人数は安定しているということなのかな、と見ています。

 あくまでもモデルなので、もっと複雑なモデルを作ることもできるでしょう。 ただ、おおよそは上記のような動きをするという理解でよいかと思います。

 SCのモデルでは、遠い将来には客数はゼロ人にまでいたります。 これが現実に即しているかどうかは別として、既存店のお客様を減らさないために何ができるか、同時にお客様を増やすために何ができるか、しっかりと考えていくのが我々の仕事となります。

 時の経過にともなって価値を減じるものが、客数減少にかかわるでしょう。

 時の経過にともなって価値を増すものが、固定客を増やし、新たなお客様を呼び込むでしょう。

 それが何なのか、永遠の課題かもしれません。

 

※文頭の写真

 オービカ モッツァレラバー 東京ミッドタウン

モツァレラのサラダ。 3粒のうち真ん中の1粒はやや黄色い。 モツァレラを藁でスモーク(アフミカータ)したもの。 フレッシュなモツァレラの甘い香りとスモークのやや重たい香りがいい残り香になります。 その残り香を思い出すと、また食べに行きたくなります。

客数の推移

 お店は開店した日から、地域の皆さんとの長年にわたるお付き合いがスタートします。地域の人たちがお店を認知するにしたがって、徐々に来店客数が増えるでしょう。

 一方ですでに名前が知られているチェーン店の場合は異なる動向を示します。地域の子供同士や親子間、親同士など様々なつながりの中で「あそこに○○屋がはいるんだって」「開店は12月9日らしい」といった事前情報が大体出回るようです。

「まちBBS」の掲示板などで話題になることもよくあります。こういうところです。

 こんなふうにチラシが入ることだってあります。

 また、もともとそのブランドがどういう味や雰囲気、価格感なのかはだいたい認知されています。ですので、認知段階はとっくにクリアされています。あとはお客様は実際にその店舗を試してみて、アクセスや実際の客層、雰囲気などを気に入れば使い続けチャンスは広がりますし、そうでなければ足を向けなくなります。認知が十分にされているチェーン店では、初めからいきなり客数マックスを迎えてしまうケースがあったりします(盆や正月などイベント性の高い日を除く)。

 客数の週次推移を類型化してみると、以下のような4類型に分かれます。

 某チェーン在職時の経験でいうと、開店当初から客数が漸増する店はさほど多くありませんでした。国内のある地方の繁華街への出店時に客数の漸増がみられました。これはまだ某チェーンがその地方で認知されていなかったためと考えられます。また、人口増加の著しいベッドタウンへ出店したときには、客数の漸増がみられました。人口増加の恩恵をもろに受けたからでしょう。

 このように、客数が漸増するのは

①出店地域ではさほど認知されていない場合

②出店地域のターゲット人口が増えている場合

と考えます。

 一方で、客数が安定している典型例は駅前立地の店です。駅前立地は客数が初めからかなり安定していて開店後しばらくたっても客数にあまり変化がありません。ただ、たとえば駅前立地なら初めから安定した集客が見込めるかというと、そんなことはありません。店によって様々で、その店の個性というしかないときもあります。全体として、という話で受け止めていただければと思います。

 ショッピングセンターに出した店は急激に週次客数が少なくなっていきます。これは、ショッピングセンター開業時に自分たちの店を開店するケースではさらに顕著になります。ショッピングセンター自体の集客力が飲食店の来客人数に大きく影響するからです。後でこの傾向を定量的に把握する数式モデルを組みましたので紹介します。

 ロードサイド店舗もショッピングセンター立地ほどではないですが、客数が漸減する傾向にあります。

 変形型の典型は、観光地や遊園地そばの店です。GWや海水浴シーズンなどに客数がどっと増えたりします。

 次回は客数の推移を定量的に扱ってみます。

 

※文頭の写真

 オービカ モッツァレラバー 東京ミッドタウン

 都心でも歩道部分が広く、比較的のんびりとできる。

 写真はブラッドオレンジジュース。この日は運転もあったので、飲酒はできず。

 ブラッドオレンジジュースは結構酸っぱいので、イタリアでは氷はいれず、ガムシロップを入れて飲むのだとか。なんかもったいないような、妙な貧乏性が頭をもたげてきてしまう。ガムシロップを入れるのは、ちょっと無理だなぁ。

V(価値)のあげ方

 たまにはレシピの話もしたいと思います。

 味の要素で大事なのは、Aroma、Flavor、Taste、Look、Texture。

 そのなかでもFlavor、これが難しい。フレーバーというのは、飲み込んだ後に鼻腔に残る香りです。アロマというのは口先に食べ物を持ってきたときに初めに感じる香り。テイストというのは舌で感じる味。ルックは見た目。テクスチャーは食感です。

 味は工場で作りこめます。どの醤油をつかうか、油はどれにするか、塩かどを立たせないようにするにはとか、甘味は玉ねぎなのかはたまた味醂なのか。

 ルックは食材の種類と色合い、ボリュームで決められます。ようはお金のかけようで決まるということです。

 アロマは、店でチーズをかけるとか、コショウをパッとふるとか、レモンを絞るとかで何とかなります。

 フレーバーは、アロマに通じますが、ちゃんと残ってくれなければならない。食材の良さがもろに出てしまいます。とくに、工場で処理してきた野菜はもうダメ。次亜塩素酸水などの殺菌剤や微生物が自らを守るためにつくったバイオフィルムを壊すための界面活性剤を使用するのですが、これらが野菜のアロマとフレーバーを殺します。 

 鼻腔にかすかに残る心地よい感覚が、お客様に「また来たい」という気持ちにさせます。

それが何なのか、それは各店が工夫を凝らすところでしょう。

 

 出典)特定非営利活動法人うまみインフォメーションセンター

 

 チーズや味噌、メンマのような発酵物の香り、クミンやショウガなどのハーブの香り、煮込んだ肉とソースの香り、ニンニク玉ねぎ人参セロリを炒めた香り、切りたての野菜の香り、炭で焼いた魚の脂の香り・・・多くの香りが考えられます。

 自分たちの店に存在を許されない香りももちろんあります。香りで人をひきつける、いかがでしょうか。チェーン店にはいささかハードルが高いですが、ものによっては工場でもできる方法もあります。店でやればもっと簡単にできます。

 フレーバーを味方につけて、価値Vを上げていきましょう。

 

 ただ、逆に嫌な臭いがでてしまうと、それだけでアウトです。

 たまにある、魚くさい卵白とか。においが広がりますからね。魚を扱ってないのにたまに食器が魚くさくなってしまうのは、これが原因でしょう。グリストラップのにおいがホールにまで広がってしまっている店とか、二度と行かないです。料理はよくても。それに臭いの厄介なところは、従業員はいつの間にかかぎ馴れてしまうことです。だから、客として来店時に「におうな」とおもっても、「いらっしゃいませ」とにこやかに語りかけてくる従業員はそのにおいにきづいていなかったりします。だから改善が進まないなんてことも。こんなところで価値を下げたくないです。

 

※文頭の写真

 あざみ野駅そばのイタリアンレストラン「イル ボッチョーロ」の生ハム盛り合わせ。生ハムを口に含んで噛み終わってから飲み込んだ、そのあとの香り(フレーバー)、これが生ハムをやめられなくする。イタリアの豚は、今大変なことになってしまった。いつになったら輸入再開できるのだろうか。

V=F/C

VE(Value Engineering、価値工学)といわれる分野で使われる象徴的な式です。

 Value(価値)はFunction(機能)/Cost(価格)であるとするものです。簡単な式ですが、極めて示唆に富むまた使いやすい式です。

 外食分野にももちろん援用可能です。

 お客様に届けるべきものを価値Vとします。たとえば、

・おいしい

・いい時間を過ごせた

・今度誰かを連れてきたい

 こういった様々なポジティブな感情をお客様に持っていただけることを、お客様に提供できた価値Vとします。このVは、価格Cが大きくなると小さくなります。

 価格が高くなるのならば、それだけ機能Fが高いことが必要です。

 500円のものを食べて「値段相応」とおもう一方で、3000円のものを食べて「値段相応」と思ったりもします。これは、期待するFの大きさが違うからです。

 メニュー開発者は、立てた仮説を考慮しながら、このVをいかに高めるかを考えます。

①価格CをあげずにFをあげる、

 これはわかりやすいと思います。

 そのほかにも、

②価格を下げてより手に取りやすくする、

 期間限定半額セールとか、在庫一掃30%OFFなんかが、このケースです。

③価格も機能も同時に上げるなどとなります。

 ちゃんと原価をかけて内容を良くしてお客様にさらにご満足いただけるように、売価も上げさせていただく。そして単品当たりの粗利額をもっといただく。そんなときの施策です。

④あるいは、機能を下げて、コストをがっつり下げるのもありです。

 ペガサス理論でいうところの「トレードオフ」がこれにあたります。あまり重要でないところを削り落として、その分原価をしっかりと落とすことで、安く提供できます。それによって購買層のすそ野を大きく広げてさらに安くすることができます。多くの飲食チェーン、GUやワークマン、西松屋などの衣料品、1200円カットの理髪店、ダイエーやOKストア、古くは三越も富裕層のものだった呉服を一般庶民に広げる役割を果たしました。西洋の音楽だってかつては一部貴族や教会の独占物で、コンサートホールなどで上演するようになったのはここ200年ほどのことだとか。狭いところに集まって遠くの演奏をみる、いままで音楽を独占していた貴族たちから見れば、チープ化したということになるでしょう。一般大衆化していく過程では多くのものが④の道をたどっています。

 ときとして、メニューは何も変わらないのに、売価だけ上がってしまうと、価値Vは落ちるなんてこともあります。

 これは、消費者の目線にたてばあってはならないことです。インフレ局面でないときには、やるべき手ではありません。ちゃんと価値の向上を踏まえながら売価をあげていくとか、値上げをするための大義名分をちゃんと立たせるなどの工夫が必要です。

 これがインフレ局面だとどうなるか。貨幣価値が落ちていく過程にあるときです。売価をあげないでおくと、貨幣価値の落ちた分だけ実質的なCが下がります。

 つまり、価値Vが勝手に上がることになっていきます。インフレに対して手をこまねいているだけの会社であれば、意図しない価値Vの上昇であり、もしかしたらこれでお客様がつくかもしれません。それを意図的にねらっているかと思われる外食企業もたしかにあります。これは考え方なのでしょうが、従業員の立場としてはつらいかもしれないです。
 私は、貨幣価値の落ちた分は補填しなければならないと考えます。たとえば今のコロナ禍以降の状況です。貨幣価値が落ちた分、原材料費やお給料、賃料や設備投資などの名目費用が上昇します。従業員の雇用環境の維持向上と、将来の成長の原資の確保のため、価格はあげなければならないと考えます。

 どのタイミングでどのくらいあげるべきなのか、それはどうやって考えるのか、いずれかの稿で触れようと思います。

 

※文頭の写真

 娘と作ったわらび餅。TOMIZで買ってきた本わらび粉で作りました。精製度合がそれほど高くないためか、黒い色をしていて、香りは・・「飼葉(かいば)」!馬小屋のにおいを優しくした感じというのでしょうか。一口目はくさいのですが、次からはとてもおいしく感じます。

 娘と共に作れたというだけで、一生の思い出に。V(価値)はとてつもなく高いです。

 

 

その料理は誰のため、何のため 2 - 外食ブランドの分布

 

 仮説を立てるにあたり、誰のため?何のため?のメニューなのかを常に思い浮かべながらレシピや器の選定、販促物の創作にあたることは、そのメニューの「打率」をあげるうえで非常に大事になってきます。

 誰のため?何のため?

 これをよく考えたいです。

 自分の店が誰のためのものなのか、その認識をしっかりとしなければなりません。ご家族連れに支えられているのか、ご家族連れなら下の子は何歳くらいなのか、時間帯によって客層は大きく変わるのか、店によって客層が変わるなら全体としてどういった客層をひきつけているのかなどです。

 加えて、新しい客層を取り込みたい場合、どういった人にきていただきたいのかも整理したいです。

 そういった人たちが、何のために来ているのか、何をしに来ているのか、なぜ選んでくれているのかも考えなければなりません。

 たとえば、平日ランチを考えてみます。平日にランチに使っていただくには、単に「おいしいから」だけではなかなか来てくれないでしょう。

①2歳程度の子連れ30代ママであれば、子供特有の騒ぎ方がある程度は許容される空間を求めます。

②休憩時間のきまっている職場に勤める30代には、「時間が読める」ことも重要です。

年金生活の方であれば、限られた生活費の中で、ご夫婦やお仲間とゆったり落ち着いてご自分のペースで楽しくたべれることが大事です。

 こう見ると、その人のライフステージによっておなじ「ランチ」でもお店に求めることが大きく異なることがわかります。

 さらにいうと、おなじライフステージにいても、価値観は個人でそれぞれ異なります。想像してみて下さい。職場で世帯収入がにたような、おおむね同じような年齢の子供を抱えている同性同士でも、価値観はかなり違うはずです。たとえば子供の学校を考えるとき、私は公立がいいと思っていますが、私立がいいと思っている人もいます。いい悪いというよりも、個人の価値観の違いに過ぎません。

 あるいは、資産や収入は個人の価値観に大きく影響します。もちろん、お金とは関係なく、エコなものがいい、とか、美容より料理に興味をもつなど個人の性格が反映されもします。こういったものを「ライフスタイル」とします。

 個人のライフスタイルの情報をとり、これとチェーンレストランのお店選びにひもづけて、それをマップにしてみました。

 ただし、元データは2016年頃と古いです(会社のデータではありません、念のため)。

 数百人~数千人程度のライフスタイルの情報が得られれば、マップ(地図)にすることができます。

 以前にも書きましたが、たとえば「叙々苑」ユーザーと「牛角」ユーザーとでは資産と年収に大きな差があります。ライフスタイルは大幅に違うはずであり、実際、上記のマップ上では両社はだいぶ離れた場所にプロットされています。

上の図の中の各ブランドを表すプロットの色は、別途行ったクラスター分析のなかで、同一クラスターに属するブランドです。例えば茶色のプロット(「叙々苑」「華屋与兵衛」「つばめグリル」「フォルクス」「柿安ダイニング」)は一つのクラスターに属していますが、(原点ちょっと右の)一見距離のちかい「牛角」と「スタバ」は別のクラスターに属します。これは、平面だと近くだけであって実際には3次元目(実際にはさらにもっとたくさんの次元)があります。紙の裏側に向かう奥行を勘案すると、「スタバ」は「サブウェイ」や「タリーズ」に近いということになります。

その他に、たとえばパスタのくくりで見たとき、「ポポラマーマ」「五右衛門」「カプリチョーザ」は右の「カジュアル・女性受け」としたカテゴリーに入りますが、「サイゼリヤ」「グラッチェガーデンズ」「ジョリーパスタ」は「若年・家族向け」に見事に入っています。サイゼリヤは株式会社サイゼリヤグラッチェガーデンズすかいらーくグループ、ジョリーパスタゼンショーと、経営母体がファミリーレストラン系なんですよね。お客様はそんなことを考えているわけないのですが、敏感に嗅ぎわけているのかもしれません。

 このマップによれば「バーミヤン」が「赤坂離宮」で出てくるような素材をつかった限定メニューをだしても、まず売れないだろうことを意味しています。「誰のためか」がずれています。バーミヤンをよく利用する方のライフスタイルと赤坂離宮をよく利用する方のライフスタイルはかなり離れているはずです。逆もしかりです。想像してみてください。 

 ほんとは、この地図にマーケットサイズやポピュレーションサイズのようなボリュームに関する数値があるとより良いのですが、残念ながらそこまでのデータ取得はできませんでした。

 これはあくまでも地図です。

 このマップをみて、向かうべきところをどこに定めるか、それは、みなさん次第です。

 

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