外食!商品開発 最前線

開発の舞台うら

空・雨・傘

 

・空を見上げると、雲におおわれている(事実の確認)

・雨が降るかもしれない              (解釈)

・傘を持っていこう                  (行動・結論)

 空・雨・傘という有名なフレームワークです。

 仮説を立てるとき、わたしもこのフレームワークはよく使います。

 コロナによる需要と供給のバランス崩壊により、すっかり変わってしまった購買環境やインフレの進行に対しては、以下のようフレームを当てはめられます。

 従業員の意識についても下のような空・雨・傘を描けます。コロナ禍によって時短営業、県の認証制度の導入に対する対応、陽性者発生時の消毒やシフトの組みなおし、衛生に対してますます厳しくなるお客様の要求など、様々な新しい対応を求められる一方で、売上が上がりません。店舗従業員だって人間です。そんな中ですさんでいく気持ちをどうつなぎとめられるのかを、メニュー開発の視点から考えてみます。

 どうでしょう?メニュー開発の視点からも従業員の士気鼓舞に貢献できそうな気がしてきます。

 働くみんなのためにも、少しでもいいものをお店に届けるべく、頑張っていきます!

 

 

冒頭の写真:徳川園から眺めた空。犬山成瀬の下屋敷。400年の時に思いを馳せる。自分の働くチェーン400年もたせられるだろうか。

仮説検証はなんのため?動かしたい数字はどれか

 

 仮説をたてて検証をする。最終的に動かしたい数値はなんでしょうか?。いうまでもなく、利益でしょう。利益といっても粗利益、営業利益、最終利益、あるいは限界利益などありますが、店舗人員の稼働計画に影響するほどややこしい商品だったり、設備投資の絡む施策でない限り、商品開発においては粗利益をみればよいでしょう。

 ただ、全社の利益はどれもたった一つの施策で動かせるほど軽い数値ではありません。また、そんなホームランのようなあたり施策は、まずそうお目にかかるものでもありません。

 ではつぎに、利益はなにでできているでしょうか。

 売上高と費用に分解できます。費用は極めて重要ですが、商品開発をする上では色褪せた足枷のような存在で、気分が乗らなくなるので、今は置いておきます。

 売上高を見ましょう!(仕事では費用もしっかり見てください)

 売上高は、単価と客数に因数分解できます。さらにその単価も因数分解もしくは何らかの変数の関数として表すことができます。客数も同様です。



 因数分解で表せるところは ●●✕△△ で、引き算で表せるところは 〇〇-▲▲ で表してみました。わかりやすくするため、単位を付してあります。

 なお、ここではカウンター越しにレジと商品の受け渡しをする店舗のパターンを描いてみました。ハンバーガーなどのファストフードやカフェチェーンで一般的です。「客数」とはせずに、「レジ会計数」としています。この場合はレジにはそのグループの代表者が並ぶなど、注文時にいったい何人が食べるのかわからないのが特徴です。さらに、フードコートに店舗がある場合、グループ内で注文にいく店が割れることがよくあります。グループ内の全員がわたしの店に来てくれればこんなにいいことはないのですが、実際にはそうはいきません。お父さんはラーメン&チャーハン、お母さんは野菜ちゃんぽん、上の子はスパゲッティで下の子はマクドナルドなんてことになり、時間差を考えてそれぞれ買いに行ってみんなで集まってやっと食事、なんてことはよくあります。ファミリーレストランのようなテーブルサービスの店に比べるとその点がやや複雑なので、上記のパターンを描きました。

「売上高をあげろ!」開発の現場にいると、そんな声が経営陣から上がってきます。

そのために何ができるか。売上高をあげるなんで、そんなざっくりした要求を眺めたところで、なにもでてきません。なので、こうして因数分解をして「レジ単価を上げる」「レジ会計数を増やす」と考えます。

 さらに、「レジ単価を上げる」には何ができるでしょうか。商品の単品単価を引き上げるのも有効な場合があります。商品構成グラフを書いて、そのグラフをきれいに整えつつ全体として高価格帯にずらすなどの手をとります。でもお客様にしてみれば、選びやすくなるなど多少のメリットはありますが、基本的には損な話なので、お客様を失うリスクが常にあります。「レジ当たりの注文点数を増やす」のがより穏当な手でしょう。でも、これも「1人当たりの注文点数」と「レジ当たりの喫食人数」に分けて考えることができます。

 こうして、「売上高をあげる」という大目的を因数分解してアクションがイメージできるサイズにまで細かく砕くことができました。さらに個人やプロジェクトチームがテーマとして取り組めるサイズにまで細分化すれば「売上高を上げる」を目的とした実際の開発業務が進行可能となります。

 たとえば、カフェチェーンであれば、「単品単価の上昇」にあたり、季節ごとの商品を去年より少しグレードアップすれば少々値段を高くしても去年並かそれ以上に売れるかもしれません。また、コロナとウクライナ情勢をうけても今ならば、メリハリを付けた価格改定をすればお客様からあっさりと受け入れてもらえるかもしれません。また、「1人当たりの注文点数の向上」にあたり、ドーナッツなどを利益率を抑制して販売すれば、いままでは外のラーメン屋でしっかり食べてきてカフェでコーヒーだけにしていた人を、ラーメン屋ではやや抑えてうちの店で「もう一品」頼んで満腹になるように誘導できるかもしれません。

 このように、「売上」というBig Wordのままでは施策に落とし込みにくいので、より手が出しやすいサイズにまで因数分解していき、そこをゴールとして仮説を立てていきます。

 

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※文頭の写真

 オスロコーヒーのパンケーキ。大判でのっぺらぼうでとっつきの悪い感じが「売上高」のようなBig Word とマッチした。サクフワでかけたシロップが噛むごとにスポンジの間からジュワッ。横のクリームチーズをのせるとトロける感じがさらにプラス。

 パンケーキ、某チェーン店でメレンゲがくさいときがあって、それ以来苦手になってしまったのだが、ここのはうまかった。

仮説をたてて検証する

新たな商品施策を考えるとき、たいていは客層と用途を視野にいれた何らかの仮説を立てていると思います。たとえば、

といった仮説です。”仮説”は”思い込み”と紙一重です。あとはその仮説を検証していくことで、全店舗で実施する価値があるかどうかを決めていくことになります。

 当然ですが、狙うべきお客様はどういう人なのか、どの用途なのかを思い描いています。その施策をおこなうことで、狙った通りのことが起きているかを調べることになります。

 このケースだと検証するべき内容は、

となるでしょう。 

 また、仮説検証とは別に狙ったお客様方を中心にどういう感想をもったかも知りたくなります(苦労の末編み出したアンケートの取り方とその分析方法も別稿でお伝えします)。

 さらに、果たしてビジネス上ちゃんと儲かる話なのか、店舗オペレーションがぐちゃぐちゃになったりしないかも調べておかなければなりません。

 

 そのほかにも例えば、店舗の改装を考えた時、この際思い切って内外装をうんと変えてしまえ!ということが上層部からでてくるときがあります。

 そんなときはほとんど作業指示のようにでてくるので、「なぜやるのか」とか「誰のためなのか」などの基本的な情報がすっぽ抜けてる場合がほとんどです。社長に向かって「その施策は何のために行うのですか?」と聞ける勇気は、大事な家族のいる私には、ありません。

 当然、走りながら考えるのですが、そんな時にたてる仮説はこんな感じです。

 ②のコアターゲットは、平日ディナーの飲酒用途のお客様となりましょうか。

 このケースだと検証するべき内容は、

となるでしょう。

 また、仮説検証とは別に狙ったお客様方を中心に、「内装のいい点・至らない点」についてどういう印象をお持ちになったかも知りたくなります。

 さらに、仮説を検証するのと同時に、果たしてビジネス上ちゃんと儲かる話なのか、オペレーションは大丈夫か(図面ではわかりきらなかった動線や視線、光線反射など)調べておかなければなりません。

 

 また、こんなのもあるかもしれません。文頭の写真のようなおしゃれなスイーツを導入して若い人を呼び込みたい。

 この時の仮説は、

 このケースだと検証するべき内容は、

 検証方法は、

①=注文者に対するアンケート。客層ごとに集計しておきたい。

②=Twitterを確認するのがいいでしょう。"Social Insight"など便利なサイトも多くあります。

③=注文者に対するアンケート。客層ごとに集計しておきたい。

④=注文者に対するアンケート。客層ごとに集計して割合を比較。比率の検定をしておくと、より信頼性も高まります。

 オペレーション大丈夫かどうか、ロスも含めてちゃんと儲かるかどうかも、ちゃんとみます。ぱっと見の判断で申し訳ないのですが、文頭写真の抹茶のお菓子の商品は、実際そこが心配だったりします。

 リスクの確認も重要です。たとえば、女性が本当にたくさん来てしまうと、いままで来てくださっていた男性常連客が逃げることがあり得ます。性別のバランスが崩壊すると、一気に「女性だけの店」「男性だけの店」となってしまうでしょう。性別によって間口を狭めることが「リスク」になるのか、「コアターゲットを捕まえること」になるのか、どちらになるのか、ブランドのイメージをどう作り上げるかにかかっているともいえそうです。

 

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※文頭の写真

 日本茶喫茶 茶縁

 前から気になっていた店。平日の昼前にいったら、いい席ですわれた。10年以上あるのに、休日は満席のイメージしかない。抹茶味、煎茶味の和洋菓子をいただいた。嫁と娘が名古屋にきたら連れてきたい店だな。ほうじ茶ラテ、ふんわりといい香り。砂糖の甘さに香ばしさがしっかりと乗ってきた。料理は塩味に味がのる。甘味は砂糖に香りがのる。

 

 
   

 

お客様のセグメント分け



 一概にお客様といっても多種多様です。なので、各社様々にお客様を分類して考えているはずです。あるいは、施策ごとに細かく分けているかもしれません。()内は一例です。

・性・年齢による分類(30代女性)

・社会的属性による分類(大学生、会社役員)

・ライフステージによる分類(既婚就業女性で下の子が小学生)

・ライフスタイルによる分類(SDGsに関心が高く積極的に生活に取り入れている)

・来店頻度による分類(高頻度~低頻度、休眠客)

 ライフスタイルによる分類のような煩雑なセグメントわけはメニューなどの短期的な施策の効果検証に用いるのはあまりお勧めしません。ブランドイメージの再構築などの長期にわたって行われるべき施策の効果検証には極めて有効ですが、短期的な施策についてやろうとしても、あまりにも煩雑なため、ご意見をいただきたいお客様にも多大なご負担がかかりますし、データ処理にも専門的かつ多大な時間がかかります。

とはいえ、ライフスタイルによる分類をつかうと、ブランドに対する意識についてきわめて興味深い内容をあぶりだすことができるので、後日別稿を起こすこととします。

 そのほかにもきっと多くの分類方法があると思います。グループインタビューのセッションを組む時には、

・学食をのぞく外食頻度が月10回以上で、ファミレスAのファンだがファミレスBにはいかない女子大生

などという分類で集めてくることもあります。

購買傾向にもろに影響するけど、情報として取りにくいものに、

世帯年収

があります。焼肉のカテゴリーの中でも、高級焼き肉店から大衆焼き肉店までいろいろありますが、どこによく行くかは(用途ももちろんありますが)その人の家庭の資産と収入がおおきな影響を与えていることがネット調査ではっきりと出ました。

 このあたりの調査概要についても、なかなか興味深いのでいずれ触れたいと思います。

 インターネットをつかった大規模な調査なら、こういう情報を集めることもできましょうが、レストランで新しい商品を出して目の前のお客様のご意見をいただきたいときに、年収のような個人情報などのなかでも特にセンシティブなことはなるべくそっとしておくなど、配慮が必要です。

 さらに、先の記事で書いた、ように、「誰のため、何のため」の両方をおさえなければなりません。

 500円のラーメンを食べる人と都心の高級イタリアンに家族を連れていくとがまったく同一人物だったりすることもよくあります。同一人物でも500円のラーメンで満足する時もあれば、広尾でしっかりしたイタリアンを家族で食べたくなったりするものです。

 性年齢やその人の家族状況、年収などで区切るだけでは好ましくなく、用途も極めて重要なセグメントの切り口になります。

・用途による分類(ランチ、夕食、飲酒、勉強・商談、休憩、お祝いなど)

もしっかり押さえたいです。この用途については、外資系メーカーにいたときに結構叩き込まれました。

 たとえば、一概に「ランチ」といってもいろいろです。

 ファミリーレストランであれば、休みの日の親子のランチは重要です。平日のランチを取り込みに行くのも極めて重要。居酒屋チェーンでも昼時間帯のサラリーマンのランチ需要を取り込みに行きます。2013年ころだったか、さくら水産の500円ランチ、衝撃でした。そのときの衝撃が、私なりにランチの在り方を考え直すきっかけをくれました。あの驚きがなければ、某チェーンにいるときに「何とかして安いランチを提供する」とは、ならなかったでしょう。誰にも言っていない内緒の話です。今思えば、はたして良かったのか。ウクライナ情勢や黒田総裁下の円安状況を踏まえると、安さに価値をおくビジネスの罪深さも感じてしまいます。

 駅前のイートインスペース付きのベーカリーなら、年金暮らしの方々のちょっとした休憩にもつかっていただけるようにランチを出すでしょう。カフェチェーンもサンドイッチをだしてランチ需要を取り込みに行きます。そうそう、個人的にはドトールミラノサンドは大好物でした。日本でサブマリン型のサンドイッチがなかなか浸透しないのは、ドトールミラノサンドが高い障壁になっているからだと思っています。あのパンは、チャバタがヒントになってるのでしょうかね。知っている方いらっしゃったら、教えてください。

 なお、上述のナショナルチェーンでの平日ランチ、繁華街ではサラリーマンや就職活動中の女子学生さんなんかに使ってもらっていますが。一方でロードサイドにいくとご年配の方々が使ってくださっているんですね。「誰のため」のスタートはサラリーマンでした。強い商品は様々な客層に広がっていくのだということを、まざまざと感じました。

 いろいろと話を広げてしまいましたが、どのようなセグメント分類が好ましいのかは、立てた仮説と検証内容次第です。さらに、施策の目的と調査実施の難易度によって決めてください。全社統一のセグメントわけの方法を一つ決め、それからはみ出るものを各施策ごとに特定する、そんな形でコアターゲットを決めていくのがいいかもしれません。

 わたしがやったなかで、一番狭そうなターゲットは、「スープストックトーキョーを好んで使うが、夜も遅くなったのでサクッとスープでディナーにして帰りたい20代後半の女性」でした。完全にミートしたかどうかはやや怪しいですが、有名ブロガーの方々からご好評をいただき、しばらくはその延長の施策を繰り返しやってました。

 

 長い記事の最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。

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※文頭写真

 多摩センター ラ・パーラ

真のナポリピッツァ協会」公認店。写真は2020年のクワトロフォルマッジ。嫁の誕生日+長男の高校入学祝い。2009年、下の子がまだ1歳のときに初めてお邪魔し、クワトロフォルマッジにはちみつをかけて食べるのを教わった。ゴルゴンゾーラの酸味・旨味とはちみつの甘味が心地よい。下の子には食べさせないように一生懸命気を使いながら嫁・長男とともに楽しんだ。

 

 

 

その料理は誰のため、何のため

 

 先の記事の中で、よい料理とは「関わる人すべてが幸せになれる料理」と書きました。「関わる人」ですから、世の中の全員を相手にしているわけではありません。お客様になってくださる方は、日本中のごく一部の方です。地域的に限られた範囲であったりするのはもちろん、提供する料理がとがっていたりすると、特徴が出る一方で客層を狭める方向に働きます。

 一つ断っておきたいのは、客層を狭めるのは決して悪いことではありません。

 かつて私が外資系メーカーに勤めていたときに同僚のマーケターからこんなことを教わりました。

「その商品をみたとき・使ったときに、お客様が”It is to me.”と思えるか?が大事だ」

”It's to me.”は「私のためのもの」で訳はあってますでしょうか。

 どんなときにIt's to me.と思うかは、人それぞれです。たとえば、

①1000円のラーメンより500円のラーメンが良いならば、その人は食事にお金をかけたくないと思っているわけで、そういう安いラーメンは、そのお客様にとっては、It is to me. なものであるといえます。

②家族でたまには美味しいものを食べたいと思ったとき、客単価1300円のファミリーレストランでは満足できず、広尾までいってイタリア・プーリア州の料理が食べたい、というときは、そのお客様にとってはア〇〇●〇・サ〇ー〇がその時は”It is to me."と思えるレストランだったりします。

 人によっては、①を行動の中心にする人も多いでしょう。あるいは②ばかりの人も中にはいるかもしれません。でも①と②の両方の行動を(頻度や程度は違えど)取る人も多いでしょう。そんな人の心の中(Deep Insights)をのぞいたら、もしかしたら、行動の中心に「家族優先で自分だけの食事は後回し」というのがあるのかもしれません。そんな人にはたとえば、「小中学生のこどもと家族みんなで一緒にいける500円くらいのラーメン屋さん」なんてものがあったら、最高なのかもしれません。あくまでも仮説ですが。

 このように商品は、そのお客様の用途にしっかりと刺さることが大事です。一度しっかりと刺されば、そのお客様はまた食べに来てくれます。また、そのお客様と似たような人(同じセグメントに属する人)も食べてくれます。そしてそのセグメントの周囲のセグメントに属する人もある程度の比率で食べに来てくれます。

 下に模式図を示しました。何らかの方法でお客様をセグメント分けし、ターゲットとなるセグメントを確認します。さらにその中で特にターゲットとして重要なセグメントを特定し、それをコアターゲットとします。その商品を発売したのち、コアターゲットにしっかりと刺さっていれば、その商品は徐々に周辺セグメントに広がっていく力を持っています。きわめて強い商品であれば、いつの間にかその商品は周囲のセグメントを完全に飲み込んで「ベーシックアイテム」としてふるまうことになるでしょう。

 ここで気を付けなければならないのは、客層が広く常時使用する高頻度に買われる商品(「ベーシックアイテム」)をいきなり狙ってつくることはできないということです。

 あるコアターゲットにしっかりと刺さり、それが周辺のセグメントに浸透した結果として、広い客層を持つベーシックアイテムになるのであって、その順番を間違えてはなりません。経験を踏まえてそう断言できます。

 コアターゲットにしっかりと刺すためには、その料理が「誰のため、何のため」なのかをはっきさせます。ターゲットは狭まりますが、同時に深く刺さる可能性が高まります。しっかりと刺さったところですこしターゲットを広くしてあげるようなブラッシュアップを施せば、より広まりやすくなります。

 たとえば、本格的でおいしいがすごく辛い商品を出してこれが狭い範囲にしっかりと受け入れられたら、翌年以降にその辛みを落としたものを発売し、需要者層を広げていくなどします。

 私の家(多摩川より西)の近所にあるイタリア料理店の店主はリグーリア州で修行なさってきたそうです。リグーリアといえば、ペストジェノベーゼで有名です。すごくおいしいリグーリア料理をふるまってくださる一方で、ローマやカンパーニャなどさまざまな地方の料理を織り交ぜて店のメニューを構成しているとのことでした。町にはなければならない料理屋となって、(なかなかいけないのですが)私も大好きなお店です。これもリグーリア料理を基軸にしてよりなじみやすい料理を増やすことでターゲットを広げていったものと解釈できます。

 

※文頭の写真

 広尾ラ・メゾン・ジュヴォー(JOUVAUD)。2020年か。カヌレが流行ってやや乗り遅れ感がありながら、「食べておかねば」と思い、会社を早退して広尾へ。お店では、「ちょうど売り切れてしまったんです」と。残念!とおもったら、「15分お待ちいただければお焼きします。」「待ちます!(そんなに早く焼けるの?)」

 温かいカヌレ

 小学校低学年の頃、初めてオーブンをつかって焼き菓子を作った。表面はこんがりしたが、中まで十分に火が入りきらなかったのか、プリンみたいにプルンプルンだったのを思い出した。姉からは酷評だったかな?幼いながら、これ、ありじゃないの?と思ってた。懐かしい味を思い出しながらの広尾のカヌレでした。

 

「五方よし」のメニュー開発

「五方よし」のメニュー開発

 「良い料理をそろえたい」とは、飲食店を経営していれば誰しも思うことです。でも、「良い料理」とは何でしょうか?おいしければ、「良い料理」でしょうか?もうかれば、「良い料理」でしょうか。どれもそうですし、どれもそれだけでは正解ではないように思えます。

 なんのために料理を取り揃えているのかの原点に返れば、答えはおのずと見えてくるでしょうか。

 お客様においしいと喜んでもらい、また食べに来てもらうこと、これは間違いなく正解を構成するでしょう。

 その料理やその料理を生み出す会社の能力のおかげで、その地域になくてはならない店舗と地域の皆さんに思ってもらえる、そんな料理も間違いなく「良い料理」です。

 さらに、お取引先も商売が太くなる、そんなのもやっぱり「良い料理」なのではないでしょうか。

 その料理のおかげで店舗がしっかり利益をだせて繁盛するならば、これも「いい料理」といっていいでしょう。

 そこで、私は以下を「よい料理」と考えました。

           関わる人すべてが幸せになれる料理

 さらに付け加えると、チェーン店のように、本部で開発した料理を店舗で決められた方法でほかの人に作ってもらう場合、作り方の難易度が低いことも重要です。難しいと、味がブレまくることになりますから。チェーン店の厨房には、ほとんど包丁を握ったことのない男子大学生や味の文化的背景が異なる外国人留学生が入ることもあります。かれらがストレスなくオペレーションを遂行できることもまた「良い料理」の重要な要素となります。

 五方よし、の料理が作れたらきっとその料理はいい料理です

 

 

※冒頭写真

 名古屋のグリーディーバーガー。2021年8月にオープンしたグルメバーガー。チキンが売りなのに、なぜかビーフにしてしまったのだった。

 ソラミミ、レイヤーズ、ハンバーガー生活のすすめ、リコスといくつか回った。もちろん、マックもフレッシュネスも。マックの安定感とトレードオフの見事さにはやはり驚く。同じ外食人として、マクドナルドはできそうでできないガラスの天井を感じさせられてしまう。

はじめに

はじめに

 外食産業に身を投じてはや12年。いくつかの寄り道をしながらも、外食産業のメニュー企画・開発がどうやら自分の天職らしいと、思い定めるまでになりました。

 メニュー企画・開発といっても、形は様々。社長とかお偉いさんのいうメニューを実現してあげたり、料理長と呼ばれる人が「おいしいから」とつくった料理に「なんでこの商品を売るのか」と販売意図を整理してあげたりと、すごく勉強になる職域でもあります。

 そんな中で、自分たちでも「こういった方向にメニュー全体を伸ばしていかなければならない」とか「こんな料理があったらお客さん増えるかな」とか考えて作るのもまた楽しかったりします。

 一方でお客様の実像に迫るために、実は統計学や多変量解析のような高校数学では追いつかないような数学を駆使することもあり、それはそれで学ぶものが多かったりもします。

 メニューの企画・開発を主に担当してきた身として、真に会社のためになるメニューとは何なのか、その答えはどうやって導き出すものなのか、自分なりに苦闘してきた中でつかみ取ってきたあらゆるエッセンスを、皆さんにすこしずつ共有させていただきます。皆様にはそんな外食における商品開発現場の一端から、何かヒントでも感じ取ってもらえればうれしいです。

 特に若い方には、商品開発の意外とロジカルな一面をとおして「こんな仕事の進め方もあるのか」と働き方の参考になれればと思います。
 さらには、多くの外食産業のメニュー開発に従事する人たちが新たな地平を切り開くための助けになれば、こんなにうれしいことはありません。

 そのためには、できることならばここに書いたことをさらに進化させて、皆さんのご意見を取り入れながらしっかりとした背骨の通ったものにまで昇華させていければと思います。

 皆様のご意見をお待ちしています!

 

※文頭の写真

 乃木坂にあるニーノ・カフェ。アーモンド(mandorla)のケーキ。エスプレッソとこのケーキでだいぶゆっくりできた。会社で早速再現しようとしたが、原価が全く合わず。アーモンドプードルやナッツ類の風味のするシフォンにすることで自分を納得させた。退職してしまったから、その後どうなったっことやら。