外食!商品開発 最前線

開発の舞台うら

その料理は誰のため、何のため

 

 先の記事の中で、よい料理とは「関わる人すべてが幸せになれる料理」と書きました。「関わる人」ですから、世の中の全員を相手にしているわけではありません。お客様になってくださる方は、日本中のごく一部の方です。地域的に限られた範囲であったりするのはもちろん、提供する料理がとがっていたりすると、特徴が出る一方で客層を狭める方向に働きます。

 一つ断っておきたいのは、客層を狭めるのは決して悪いことではありません。

 かつて私が外資系メーカーに勤めていたときに同僚のマーケターからこんなことを教わりました。

「その商品をみたとき・使ったときに、お客様が”It is to me.”と思えるか?が大事だ」

”It's to me.”は「私のためのもの」で訳はあってますでしょうか。

 どんなときにIt's to me.と思うかは、人それぞれです。たとえば、

①1000円のラーメンより500円のラーメンが良いならば、その人は食事にお金をかけたくないと思っているわけで、そういう安いラーメンは、そのお客様にとっては、It is to me. なものであるといえます。

②家族でたまには美味しいものを食べたいと思ったとき、客単価1300円のファミリーレストランでは満足できず、広尾までいってイタリア・プーリア州の料理が食べたい、というときは、そのお客様にとってはア〇〇●〇・サ〇ー〇がその時は”It is to me."と思えるレストランだったりします。

 人によっては、①を行動の中心にする人も多いでしょう。あるいは②ばかりの人も中にはいるかもしれません。でも①と②の両方の行動を(頻度や程度は違えど)取る人も多いでしょう。そんな人の心の中(Deep Insights)をのぞいたら、もしかしたら、行動の中心に「家族優先で自分だけの食事は後回し」というのがあるのかもしれません。そんな人にはたとえば、「小中学生のこどもと家族みんなで一緒にいける500円くらいのラーメン屋さん」なんてものがあったら、最高なのかもしれません。あくまでも仮説ですが。

 このように商品は、そのお客様の用途にしっかりと刺さることが大事です。一度しっかりと刺されば、そのお客様はまた食べに来てくれます。また、そのお客様と似たような人(同じセグメントに属する人)も食べてくれます。そしてそのセグメントの周囲のセグメントに属する人もある程度の比率で食べに来てくれます。

 下に模式図を示しました。何らかの方法でお客様をセグメント分けし、ターゲットとなるセグメントを確認します。さらにその中で特にターゲットとして重要なセグメントを特定し、それをコアターゲットとします。その商品を発売したのち、コアターゲットにしっかりと刺さっていれば、その商品は徐々に周辺セグメントに広がっていく力を持っています。きわめて強い商品であれば、いつの間にかその商品は周囲のセグメントを完全に飲み込んで「ベーシックアイテム」としてふるまうことになるでしょう。

 ここで気を付けなければならないのは、客層が広く常時使用する高頻度に買われる商品(「ベーシックアイテム」)をいきなり狙ってつくることはできないということです。

 あるコアターゲットにしっかりと刺さり、それが周辺のセグメントに浸透した結果として、広い客層を持つベーシックアイテムになるのであって、その順番を間違えてはなりません。経験を踏まえてそう断言できます。

 コアターゲットにしっかりと刺すためには、その料理が「誰のため、何のため」なのかをはっきさせます。ターゲットは狭まりますが、同時に深く刺さる可能性が高まります。しっかりと刺さったところですこしターゲットを広くしてあげるようなブラッシュアップを施せば、より広まりやすくなります。

 たとえば、本格的でおいしいがすごく辛い商品を出してこれが狭い範囲にしっかりと受け入れられたら、翌年以降にその辛みを落としたものを発売し、需要者層を広げていくなどします。

 私の家(多摩川より西)の近所にあるイタリア料理店の店主はリグーリア州で修行なさってきたそうです。リグーリアといえば、ペストジェノベーゼで有名です。すごくおいしいリグーリア料理をふるまってくださる一方で、ローマやカンパーニャなどさまざまな地方の料理を織り交ぜて店のメニューを構成しているとのことでした。町にはなければならない料理屋となって、(なかなかいけないのですが)私も大好きなお店です。これもリグーリア料理を基軸にしてよりなじみやすい料理を増やすことでターゲットを広げていったものと解釈できます。

 

※文頭の写真

 広尾ラ・メゾン・ジュヴォー(JOUVAUD)。2020年か。カヌレが流行ってやや乗り遅れ感がありながら、「食べておかねば」と思い、会社を早退して広尾へ。お店では、「ちょうど売り切れてしまったんです」と。残念!とおもったら、「15分お待ちいただければお焼きします。」「待ちます!(そんなに早く焼けるの?)」

 温かいカヌレ

 小学校低学年の頃、初めてオーブンをつかって焼き菓子を作った。表面はこんがりしたが、中まで十分に火が入りきらなかったのか、プリンみたいにプルンプルンだったのを思い出した。姉からは酷評だったかな?幼いながら、これ、ありじゃないの?と思ってた。懐かしい味を思い出しながらの広尾のカヌレでした。