外食!商品開発 最前線

開発の舞台うら

お客様のセグメント分け



 一概にお客様といっても多種多様です。なので、各社様々にお客様を分類して考えているはずです。あるいは、施策ごとに細かく分けているかもしれません。()内は一例です。

・性・年齢による分類(30代女性)

・社会的属性による分類(大学生、会社役員)

・ライフステージによる分類(既婚就業女性で下の子が小学生)

・ライフスタイルによる分類(SDGsに関心が高く積極的に生活に取り入れている)

・来店頻度による分類(高頻度~低頻度、休眠客)

 ライフスタイルによる分類のような煩雑なセグメントわけはメニューなどの短期的な施策の効果検証に用いるのはあまりお勧めしません。ブランドイメージの再構築などの長期にわたって行われるべき施策の効果検証には極めて有効ですが、短期的な施策についてやろうとしても、あまりにも煩雑なため、ご意見をいただきたいお客様にも多大なご負担がかかりますし、データ処理にも専門的かつ多大な時間がかかります。

とはいえ、ライフスタイルによる分類をつかうと、ブランドに対する意識についてきわめて興味深い内容をあぶりだすことができるので、後日別稿を起こすこととします。

 そのほかにもきっと多くの分類方法があると思います。グループインタビューのセッションを組む時には、

・学食をのぞく外食頻度が月10回以上で、ファミレスAのファンだがファミレスBにはいかない女子大生

などという分類で集めてくることもあります。

購買傾向にもろに影響するけど、情報として取りにくいものに、

世帯年収

があります。焼肉のカテゴリーの中でも、高級焼き肉店から大衆焼き肉店までいろいろありますが、どこによく行くかは(用途ももちろんありますが)その人の家庭の資産と収入がおおきな影響を与えていることがネット調査ではっきりと出ました。

 このあたりの調査概要についても、なかなか興味深いのでいずれ触れたいと思います。

 インターネットをつかった大規模な調査なら、こういう情報を集めることもできましょうが、レストランで新しい商品を出して目の前のお客様のご意見をいただきたいときに、年収のような個人情報などのなかでも特にセンシティブなことはなるべくそっとしておくなど、配慮が必要です。

 さらに、先の記事で書いた、ように、「誰のため、何のため」の両方をおさえなければなりません。

 500円のラーメンを食べる人と都心の高級イタリアンに家族を連れていくとがまったく同一人物だったりすることもよくあります。同一人物でも500円のラーメンで満足する時もあれば、広尾でしっかりしたイタリアンを家族で食べたくなったりするものです。

 性年齢やその人の家族状況、年収などで区切るだけでは好ましくなく、用途も極めて重要なセグメントの切り口になります。

・用途による分類(ランチ、夕食、飲酒、勉強・商談、休憩、お祝いなど)

もしっかり押さえたいです。この用途については、外資系メーカーにいたときに結構叩き込まれました。

 たとえば、一概に「ランチ」といってもいろいろです。

 ファミリーレストランであれば、休みの日の親子のランチは重要です。平日のランチを取り込みに行くのも極めて重要。居酒屋チェーンでも昼時間帯のサラリーマンのランチ需要を取り込みに行きます。2013年ころだったか、さくら水産の500円ランチ、衝撃でした。そのときの衝撃が、私なりにランチの在り方を考え直すきっかけをくれました。あの驚きがなければ、某チェーンにいるときに「何とかして安いランチを提供する」とは、ならなかったでしょう。誰にも言っていない内緒の話です。今思えば、はたして良かったのか。ウクライナ情勢や黒田総裁下の円安状況を踏まえると、安さに価値をおくビジネスの罪深さも感じてしまいます。

 駅前のイートインスペース付きのベーカリーなら、年金暮らしの方々のちょっとした休憩にもつかっていただけるようにランチを出すでしょう。カフェチェーンもサンドイッチをだしてランチ需要を取り込みに行きます。そうそう、個人的にはドトールミラノサンドは大好物でした。日本でサブマリン型のサンドイッチがなかなか浸透しないのは、ドトールミラノサンドが高い障壁になっているからだと思っています。あのパンは、チャバタがヒントになってるのでしょうかね。知っている方いらっしゃったら、教えてください。

 なお、上述のナショナルチェーンでの平日ランチ、繁華街ではサラリーマンや就職活動中の女子学生さんなんかに使ってもらっていますが。一方でロードサイドにいくとご年配の方々が使ってくださっているんですね。「誰のため」のスタートはサラリーマンでした。強い商品は様々な客層に広がっていくのだということを、まざまざと感じました。

 いろいろと話を広げてしまいましたが、どのようなセグメント分類が好ましいのかは、立てた仮説と検証内容次第です。さらに、施策の目的と調査実施の難易度によって決めてください。全社統一のセグメントわけの方法を一つ決め、それからはみ出るものを各施策ごとに特定する、そんな形でコアターゲットを決めていくのがいいかもしれません。

 わたしがやったなかで、一番狭そうなターゲットは、「スープストックトーキョーを好んで使うが、夜も遅くなったのでサクッとスープでディナーにして帰りたい20代後半の女性」でした。完全にミートしたかどうかはやや怪しいですが、有名ブロガーの方々からご好評をいただき、しばらくはその延長の施策を繰り返しやってました。

 

 長い記事の最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。

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※文頭写真

 多摩センター ラ・パーラ

真のナポリピッツァ協会」公認店。写真は2020年のクワトロフォルマッジ。嫁の誕生日+長男の高校入学祝い。2009年、下の子がまだ1歳のときに初めてお邪魔し、クワトロフォルマッジにはちみつをかけて食べるのを教わった。ゴルゴンゾーラの酸味・旨味とはちみつの甘味が心地よい。下の子には食べさせないように一生懸命気を使いながら嫁・長男とともに楽しんだ。

 

 

 

その料理は誰のため、何のため

 

 先の記事の中で、よい料理とは「関わる人すべてが幸せになれる料理」と書きました。「関わる人」ですから、世の中の全員を相手にしているわけではありません。お客様になってくださる方は、日本中のごく一部の方です。地域的に限られた範囲であったりするのはもちろん、提供する料理がとがっていたりすると、特徴が出る一方で客層を狭める方向に働きます。

 一つ断っておきたいのは、客層を狭めるのは決して悪いことではありません。

 かつて私が外資系メーカーに勤めていたときに同僚のマーケターからこんなことを教わりました。

「その商品をみたとき・使ったときに、お客様が”It is to me.”と思えるか?が大事だ」

”It's to me.”は「私のためのもの」で訳はあってますでしょうか。

 どんなときにIt's to me.と思うかは、人それぞれです。たとえば、

①1000円のラーメンより500円のラーメンが良いならば、その人は食事にお金をかけたくないと思っているわけで、そういう安いラーメンは、そのお客様にとっては、It is to me. なものであるといえます。

②家族でたまには美味しいものを食べたいと思ったとき、客単価1300円のファミリーレストランでは満足できず、広尾までいってイタリア・プーリア州の料理が食べたい、というときは、そのお客様にとってはア〇〇●〇・サ〇ー〇がその時は”It is to me."と思えるレストランだったりします。

 人によっては、①を行動の中心にする人も多いでしょう。あるいは②ばかりの人も中にはいるかもしれません。でも①と②の両方の行動を(頻度や程度は違えど)取る人も多いでしょう。そんな人の心の中(Deep Insights)をのぞいたら、もしかしたら、行動の中心に「家族優先で自分だけの食事は後回し」というのがあるのかもしれません。そんな人にはたとえば、「小中学生のこどもと家族みんなで一緒にいける500円くらいのラーメン屋さん」なんてものがあったら、最高なのかもしれません。あくまでも仮説ですが。

 このように商品は、そのお客様の用途にしっかりと刺さることが大事です。一度しっかりと刺されば、そのお客様はまた食べに来てくれます。また、そのお客様と似たような人(同じセグメントに属する人)も食べてくれます。そしてそのセグメントの周囲のセグメントに属する人もある程度の比率で食べに来てくれます。

 下に模式図を示しました。何らかの方法でお客様をセグメント分けし、ターゲットとなるセグメントを確認します。さらにその中で特にターゲットとして重要なセグメントを特定し、それをコアターゲットとします。その商品を発売したのち、コアターゲットにしっかりと刺さっていれば、その商品は徐々に周辺セグメントに広がっていく力を持っています。きわめて強い商品であれば、いつの間にかその商品は周囲のセグメントを完全に飲み込んで「ベーシックアイテム」としてふるまうことになるでしょう。

 ここで気を付けなければならないのは、客層が広く常時使用する高頻度に買われる商品(「ベーシックアイテム」)をいきなり狙ってつくることはできないということです。

 あるコアターゲットにしっかりと刺さり、それが周辺のセグメントに浸透した結果として、広い客層を持つベーシックアイテムになるのであって、その順番を間違えてはなりません。経験を踏まえてそう断言できます。

 コアターゲットにしっかりと刺すためには、その料理が「誰のため、何のため」なのかをはっきさせます。ターゲットは狭まりますが、同時に深く刺さる可能性が高まります。しっかりと刺さったところですこしターゲットを広くしてあげるようなブラッシュアップを施せば、より広まりやすくなります。

 たとえば、本格的でおいしいがすごく辛い商品を出してこれが狭い範囲にしっかりと受け入れられたら、翌年以降にその辛みを落としたものを発売し、需要者層を広げていくなどします。

 私の家(多摩川より西)の近所にあるイタリア料理店の店主はリグーリア州で修行なさってきたそうです。リグーリアといえば、ペストジェノベーゼで有名です。すごくおいしいリグーリア料理をふるまってくださる一方で、ローマやカンパーニャなどさまざまな地方の料理を織り交ぜて店のメニューを構成しているとのことでした。町にはなければならない料理屋となって、(なかなかいけないのですが)私も大好きなお店です。これもリグーリア料理を基軸にしてよりなじみやすい料理を増やすことでターゲットを広げていったものと解釈できます。

 

※文頭の写真

 広尾ラ・メゾン・ジュヴォー(JOUVAUD)。2020年か。カヌレが流行ってやや乗り遅れ感がありながら、「食べておかねば」と思い、会社を早退して広尾へ。お店では、「ちょうど売り切れてしまったんです」と。残念!とおもったら、「15分お待ちいただければお焼きします。」「待ちます!(そんなに早く焼けるの?)」

 温かいカヌレ

 小学校低学年の頃、初めてオーブンをつかって焼き菓子を作った。表面はこんがりしたが、中まで十分に火が入りきらなかったのか、プリンみたいにプルンプルンだったのを思い出した。姉からは酷評だったかな?幼いながら、これ、ありじゃないの?と思ってた。懐かしい味を思い出しながらの広尾のカヌレでした。

 

「五方よし」のメニュー開発

「五方よし」のメニュー開発

 「良い料理をそろえたい」とは、飲食店を経営していれば誰しも思うことです。でも、「良い料理」とは何でしょうか?おいしければ、「良い料理」でしょうか?もうかれば、「良い料理」でしょうか。どれもそうですし、どれもそれだけでは正解ではないように思えます。

 なんのために料理を取り揃えているのかの原点に返れば、答えはおのずと見えてくるでしょうか。

 お客様においしいと喜んでもらい、また食べに来てもらうこと、これは間違いなく正解を構成するでしょう。

 その料理やその料理を生み出す会社の能力のおかげで、その地域になくてはならない店舗と地域の皆さんに思ってもらえる、そんな料理も間違いなく「良い料理」です。

 さらに、お取引先も商売が太くなる、そんなのもやっぱり「良い料理」なのではないでしょうか。

 その料理のおかげで店舗がしっかり利益をだせて繁盛するならば、これも「いい料理」といっていいでしょう。

 そこで、私は以下を「よい料理」と考えました。

           関わる人すべてが幸せになれる料理

 さらに付け加えると、チェーン店のように、本部で開発した料理を店舗で決められた方法でほかの人に作ってもらう場合、作り方の難易度が低いことも重要です。難しいと、味がブレまくることになりますから。チェーン店の厨房には、ほとんど包丁を握ったことのない男子大学生や味の文化的背景が異なる外国人留学生が入ることもあります。かれらがストレスなくオペレーションを遂行できることもまた「良い料理」の重要な要素となります。

 五方よし、の料理が作れたらきっとその料理はいい料理です

 

 

※冒頭写真

 名古屋のグリーディーバーガー。2021年8月にオープンしたグルメバーガー。チキンが売りなのに、なぜかビーフにしてしまったのだった。

 ソラミミ、レイヤーズ、ハンバーガー生活のすすめ、リコスといくつか回った。もちろん、マックもフレッシュネスも。マックの安定感とトレードオフの見事さにはやはり驚く。同じ外食人として、マクドナルドはできそうでできないガラスの天井を感じさせられてしまう。

はじめに

はじめに

 外食産業に身を投じてはや12年。いくつかの寄り道をしながらも、外食産業のメニュー企画・開発がどうやら自分の天職らしいと、思い定めるまでになりました。

 メニュー企画・開発といっても、形は様々。社長とかお偉いさんのいうメニューを実現してあげたり、料理長と呼ばれる人が「おいしいから」とつくった料理に「なんでこの商品を売るのか」と販売意図を整理してあげたりと、すごく勉強になる職域でもあります。

 そんな中で、自分たちでも「こういった方向にメニュー全体を伸ばしていかなければならない」とか「こんな料理があったらお客さん増えるかな」とか考えて作るのもまた楽しかったりします。

 一方でお客様の実像に迫るために、実は統計学や多変量解析のような高校数学では追いつかないような数学を駆使することもあり、それはそれで学ぶものが多かったりもします。

 メニューの企画・開発を主に担当してきた身として、真に会社のためになるメニューとは何なのか、その答えはどうやって導き出すものなのか、自分なりに苦闘してきた中でつかみ取ってきたあらゆるエッセンスを、皆さんにすこしずつ共有させていただきます。皆様にはそんな外食における商品開発現場の一端から、何かヒントでも感じ取ってもらえればうれしいです。

 特に若い方には、商品開発の意外とロジカルな一面をとおして「こんな仕事の進め方もあるのか」と働き方の参考になれればと思います。
 さらには、多くの外食産業のメニュー開発に従事する人たちが新たな地平を切り開くための助けになれば、こんなにうれしいことはありません。

 そのためには、できることならばここに書いたことをさらに進化させて、皆さんのご意見を取り入れながらしっかりとした背骨の通ったものにまで昇華させていければと思います。

 皆様のご意見をお待ちしています!

 

※文頭の写真

 乃木坂にあるニーノ・カフェ。アーモンド(mandorla)のケーキ。エスプレッソとこのケーキでだいぶゆっくりできた。会社で早速再現しようとしたが、原価が全く合わず。アーモンドプードルやナッツ類の風味のするシフォンにすることで自分を納得させた。退職してしまったから、その後どうなったっことやら。